赤福

先週土曜日は母の誕生日だった。
母もめでたく後期高齢者の仲間入り。
「このトシになると、全然、嬉しくないわ!」
と母は言い、私が提案した誕生日特別ディナーメニューを断った。
せっかくの誕生日なんだから、と言ったが、母は「ちっとも目出度くなんか、ない!」と言ったのだ。
そうか、そんなもんなのかな~とは思ったが、小柄なくせに(!)肉食獣の母のため、金曜日に、宮崎産黒毛和牛のステーキ肉を買って帰宅した。
「母のため」と言いつつ、実のところ・・・私が食べたかったんである。

帰宅すると母はベッドで休んでいた。
そんなことはまずはないので聞いてみると、どうやら・・・
胃腸風邪
らしかった。
何度か嘔吐し、ついでに下痢までしていた。
元々小顔な母であるが、それが一回り以上小さくなっていた。・・・不謹慎ながらも、うらやましい限りである。
う~ん、せっかく買った宮崎牛だが・・・後日にしよう、と冷凍庫にしまいこんだ。

夜、夫が帰宅すると、大きな紙袋を下げていた。
母の誕生日祝いに、夫は新宿タカノのフルーツゼリーを買ってきたのだ。そして、母の大好物の赤福も買ってきていた。
「ケーキにしようと思ったんだけど、ゼリーの入れ物がかわいかったから、これにした~」
と夫は言った。
でかした! 夫よ! 
ケーキだったら、絶対に食べられない。
ゼリーも、今は無理だろうけど、日持ちする。元気になったら、おもむろに食べればよい。

・・・そんなワケで、母のために用意された肉は冷凍庫へ、ゼリーは冷蔵庫へ、としまい込まれた。
赤福は・・・
これは、日持ちがしない。
母には可愛そうだが、私と夫で消費しよう。
母は何も食べられず(食べる気になれず)、ベッドの中から、
「赤福、あんたたちで食べな・・・」
と、力なく言った。

それから3日。
母は栄養ゼリーと白湯以外は何も口にできなかった。
その栄養ゼリーでさえも、嘔吐した。
母の小顔はますます小顔になり、その表面積は私の半分程度(!)となった。
元々薄い身体が、ますます薄くなった。二の腕も細っちくなった。たぶん、4~5キロは痩せたと思う。・・・不謹慎だが、うらやましい限りである。私なんぞ、息をしているだけで栄養を補給している感じなのに。
「今日、帰宅したら、医者へ連れて行って点滴をお願いするからね。」
と母に言って、私は仕事に出かけた。
で、先ほど帰宅。

・・・なんか、いいにおいがする。
出汁のにおい。
なんか、作って食べたのか??? 食べる気になったのか???
母はテーブルに座って、テレビを見ながらうどんをすすっていた。1本ずつ。
「食べても、大丈夫?」
と尋ねると、
「栄養ゼリーを食べても気持ち悪くならなかったから、うどんを作ってみた」
と言った。
食べられれば、身体が元気になる。少しでも食べて欲しい。
うどんはもう冷めていた。たぶん、時間をかけて少しずつ食べていたのだろう。
いや~ 良かった、良かった。
3日ぶりに食べている母を見て、少し安心した。

「あのね・・・アンタに言わなイカンことがある」
と母が言った。
なんだろう、と思うと・・・
「食卓の上にあった赤福、3個食べちゃった」
ええ~! 赤福、食べた~!? あんなに嘔吐を繰り返していたのに???
「食べても、気持ち悪くならなかった?」
と尋ねると、
「1個食べてしばらく様子を見てたけど、気持ち悪くならなかったから、残ってたのも全部食べちゃった」
・・・だそうだ。
夫の買ってきた赤福は12個入りだった。
そのうち6個は昨日、私と夫が消費した。
今朝、私が1個食べた。そして夫のお弁当袋におやつとして2個入れておいた。(夫は甘党でおやつ大好き)
つまり、3個が残っていたのだ。
残った3個を、箱から出してお皿に載せ、ラップをかけて、私は仕事に出かけたのであるが・・・
確かにテーブルを見ると、赤福の皿がない。
「皿に載せておけば、誰かが食べるだろう」くらいに思っていた。その誰か、とは、当然私か夫のどちらかだろう、と思っていたのだが・・・
まさか、嘔吐を繰り返したばかりの母が食べるとは・・・!

どうやら・・・
母は順調なる回復傾向にあるらしい。
赤福が一度に3個も食べられるなら、もう大丈夫なのだろう。
しかし・・・嘔吐明けの最初の食べ物が赤福とは。
「お母さんが元気になったら、また赤福買ってきてあげるから!」
と夫がベッドの母に言っていたが、元気になる前に食べるとは、夫も聞いたらビックリだろう。
私もビックリだ。
そう言えば、昔、母は発熱中でもアイスクリームの1リットル入りのパイントを抱えてカレースプーンで食べていたなぁ。
調子が悪くても、好きな物は食べられるんだなぁ、この人は、と再認識した。(おかゆは食べんくせに・・・)

今夜はたぶん、もう何も食べないだろうが、栄養補給はできているので大丈夫だろう。
明日から、少しずつ、おかゆを食べてもらおう。
いやいや・・・おかゆとか雑炊が好きではない母のことだ。
「おかゆはイヤだけど、赤福なら食べる!」
などと言うかもしれん。
母よ・・・赤福はもう、ないのだ。
・・・っていうか、もう少し体調が戻るまで、赤福は待ってくれ。だいたい、医者も怒るに違いない。
う~ん、でも、おかゆを食べてくれるかなぁ。
おかゆって、そんなに美味しいもんじゃないもんなぁ。
何か、消化の良さそうな物を考えることにしよう。
美味しくて、栄養があって、おかゆじゃないもの・・・で、赤福じゃないもの・・・
何があるんだろう。
お心当たりのある方、ぜひお知恵をお貸しください!





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