夫の再出発

この春は本当に忙しかった。
夫が定年退職したのだ。
予定していた数々の用事はようやく済み、今週月曜日から、夫は新しい仕事に就いている。
3月31日付けで今までの仕事を退職し、4月1日から再就職。
可愛そうな気もするが、1日も休んでいない。
そう! 定年退職したからといって、家でブラブラしていられないのである!

新しい職場は通勤に1時間くらいかかる。
そして今までは出勤が早すぎてラッシュとは無縁だったのだが、今の職場の就業時間により、満員の地下鉄に乗っている。
どうやら、通勤が一番疲れるらしい。
もちろん、東京のラッシュとは比べものにはならないが、夫にとって、通勤電車で座れない、という経験はほとんどないのでビックリしたようだ。

夫の新しい仕事は、今までのキャリアを活かしたもの。
とはいえ、今までとは身分も違えば勝手も違う。環境も人も初めてのところ。
トシがトシなので緊張することはないようだが、慣れるまではまだ少しかかりそうだ。
私も夫の出勤時間が変わるのでお弁当の支度時間も変わり、思いのほか早く帰宅するので夕食の支度時間も変わる。日によっては私の方が夫よりも先に家を出る。
う~ん、私も慣れないなぁ。

初出勤の日・・・
だいぶ丸くなったとはいえ、まだまだ世間的にはかなりの瞬間湯沸かし器の夫に言った。
「気に入らないことがあっても、けんかしちゃダメだよ」
「今までと同じじゃないんだから、些細なことで怒っちゃダメだよ」
「大きな声で怒鳴ったりしないようにね」
「少しは柔らかい言い方をしてね」
「みんなと仲良くね」
と、矢継ぎ早に。
まるで・・・初登園の幼稚園児に言うような感じである。
うん、うん、わかった、と素直にうなずいて夫は出勤した。

そして、無事に帰宅。
夜7時前に帰宅するなど、現役の頃にはほとんどなかったことだ。当直明けでも夜10時を過ぎるのは珍しくなかった。
7時からのテレビを見ながら母と3人で夕食を食べるなんて! 信じられないことだ。
「どうだった?」
と新しい職場について聞いてみた。
「いろんなことが、違う」
だそうだ。

一番のショックが、ロッカーが激狭だったことらしい。ロッカーの横幅が20センチしかない、というのだ。確かに、そういうロッカーは、見たことがある。何も入りそうにないようなロッカーだ。予備の傘とコートを入れたら一杯になるだろう。
そして机しかない、ということにも驚いていた。
これは、「は?」と言われそうだが・・・
夫の前職はその肩書きによってあらゆることが区別(差別)されていた。係長以上になると椅子が変わり、袖机がもらえたりする。なかなかわかりやすいのである。
夫は退職時、個人ロッカー(約40センチ幅)2本、机、袖机2個、個人キャビネット1棹。椅子はもちろん肘掛け付きである。
それが・・・肘掛けなしの椅子に普通の事務机1個。
再就職なのだから、これは当然なのだが、まだ心の整理ができないらしい・・・。

「机が小さくてさぁ、しかもその机の中に、書類が入っとるんだぞ!」
いや、普通、机の一番下の引き出しには書類が入っているでしょうが・・・。それのどこがイカンのだ。
しかしよくよく考えてみれば・・・
今までは書類は個人キャビネットに入れて、事務机の一番下の引き出しはお菓子や趣味のお茶なんかを入れていた。個人キャビネットの上には戦闘機のプラモデルをたくさん飾り、洗ったお弁当箱を伏せておく「イカキ」まで置いていた。職場の私物化が横行していたのだ。
それが4月1日からは、並んでいる事務机の末席にちょこんと座っている。肘掛けのない椅子(しかもクッションがペラペラのヤツ)に座るのは30年ぶり、名字で名前を呼ばれるのは34年ぶり(!)だそうだ。
まぁ、確かに、心の整理がつかないだろうなぁ。

「3時のおやつの時間がなくて寂しい」
とも言っていた。
これはどうなんだろう。
私は以前、夫と同業だったので、他の普通の会社を知らない。
普通の会社って、おやつの時間ってないのだろうか。
「いや、ないでしょ、普通」という声が聞こえそうだ。私もそう思う。普通の会社には、おやつの時間なんて、ないだろうなぁと思う。
ところが夫の前職(私の前職でもある)では、始業前にコーヒー(悪くてもお茶)を若い衆が淹れてくれる。お昼ご飯の時間には、これまた若い衆がお茶を淹れてくれる。で、3時には自前か頂き物のお菓子を食べながらお茶かコーヒーを飲む。これももちろん、若い衆が淹れてくれる。
ついでに言うと、お弁当箱や趣味のお茶を入れた水筒は、普段は自分で洗うが、たま~に若い衆が洗っておいてくれたりする。
「令和」の時代が来ようというのに、まだまだ「昭和」たっぷりの職場なのだ。
長く居れば長く居ただけ、「幸福感満載」の職場環境だった・・・。

そういう「幸福感満載」の職場を離れ、普通の職場へ行った夫は、しばらくは不便を感じるだろう。
いやいや・・・人というものは、ちゃんと、いつかは慣れるのだ。
とにかく、喧嘩しないように、みんなと仲良く働いてほしいものだ。




この記事へのコメント

  • ホヌスキー

    旦那様の再就職、おめでとうございます。旦那様も変化に対応するのは時間がかかると思いますが(特にお茶付きのおやつの時間があるなど、大変恵まれていた環境だったので)、奥様も大変かと思います。何がどうということはないのでしょうが、どうも勝手がいままでと違ってやりにくいのではと拝察いたします。私も同じ環境なので、なかなか慣れません。季節の変わり目、どうぞご自愛ください。
    2019年04月03日 16:17