父、大暴れ

相変わらず多忙な毎日である。
週末は夫の実家で片付けや草刈り、月曜はレッスン、火曜は夫の実家へ作ったおかずを運搬、水曜は市民講座のレッスン、木曜・金曜とレッスン。その合間に我が家の庭の世話をし、家事を済ませる・・・
の間に、昨日は父の通院があった。

父は5月末の介護度認定で要介護4になった。
確かに・・・
要介護5が「寝たきり」なので、その一歩手前というワケだ。
今の父は、こちらの言うことが100%理解できない。父の施設を訪ねるといつも車椅子に座ったままテーブルにつっぷして寝ている。私が誰なのかもわかっていない。尿意もなく、排便してもそれがわからない。そして起きている時はずっと「んやややや・・・・」と声を発し、腕を振り回している。要介護4というのが妥当だろう。審査に来た介護調査員もさぞかしお困りになったろう、と思う。

そんな父の通院は、ここ1年、私一人では無理になってきて、夫が仕事を早引けして手伝ってくれている。
父には介護拒否があり、極度な非力(筋萎縮症)ではあるものの、げんこつを振り回したり、そこにある物を何でもつかんではそれで私や介護スタッフを叩く。まぁ、極度に非力なので痛くもなんともないのだが。
機嫌が悪いと更にひどくなる。

昨日の夕方、レッスンを終えて帰宅し、すぐに夫と共に施設へ向かった。
私が父を施設から連れ出す間に、夫は父のシートを準備する。父は尿意がわからないのでおむつをしているのだが、大変な食欲があるため、当然排泄物も大量になる。おむつでは抑えきれない時もあるので、車のシートにはいつもペット用のおしっこマットを敷く。その上に父を座らせる、というワけだ。小型犬用のマットだと、ちょうどお尻のサイズに合うのだ。自分で言うのもなんだが、なかなか良いアイデアなのである・・・。
で、父のいるユニットへ行くと、父は車椅子に座ったままテーブルにつっぷして寝ていた。
「お父さん、お医者さんへ行くよ」と声を掛けたが、父は私の言うことがわからないので拒否をする。テーブルの脚にしがみつき、必死に踏ん張る。そう、父は握力だけはほとんど衰えていないのだ。結構な力なのである。
父の指を1本1本、テーブルの脚からはがす。するともう1本の手でまた脚をつかむ・・・で、またそれをはがす・・・を繰り返し、なんとかテーブルから父の車椅子を遠ざける。まるで、ドリフのコントのようなのである。
「だ~か~ら~、今からお医者さんなの!」
と言ってはみるのだが、サッパリ通じていない。父は「んやややや・・・」と言いながら、車椅子から降ろした足を踏ん張って車を動かさないようにする。介護スタッフの助けを求めたいところであるが、スタッフはみんな他の利用者さんの世話に走り回っており、頼めるような状況にない。・・・なので、なんとか自力で父の足を床から引き剥がし、車椅子を押して1階までエレベーターで降りた。
・・・その段階で既に私はヘトヘトなのである。

その施設では面会者は靴を脱いでスリッパに履き替える、という方法を採っている。
従って私は、父を1階へ降ろしたものの、靴を履き替えねばならない。
「お父さん、いい? 靴を履き替えるでね、ちょっと待っとって~よ!」
と言い、私が運動靴に履き替える間・・・じっとしていられるワケがない。父は車椅子から降ろした足でちょこちょこと前進した。同然、自動ドアが開く。外にはデイサービスを終えた利用者さん達を送迎するバスがたくさん停まっていて、今にも発車する、という状態だった。慌てて裸足で父の車椅子を押さえ、夫を大声で呼び、夫と交代した。運動靴に無事、履き替え、父を車まで連れて行く。スライドドアを開け、介護バーにつかまらせ、お尻を夫と共に持ち上げて乗車完了。父はどうやら、昨日は行きたくなかったらしく、そして機嫌が悪いらしく、介護バーをつかまるのを拒否して夫の頭や私の背中を叩く。
・・・出発前から、私と夫は汗だくなのだ。

車の中で父は、ずっと「んやややや・・・」と言い続けていた。人差し指で車窓から見える物を指しながら、「んやややや・・・」と言う。何かを訴えたいのだろうが、言葉として成り立っていないので、私には全くわからない。
「お父さん、もうすぐ着くから、お茶を飲みましょう」
と言っても、アサッテの方向を向いて、てんで無視。もちろん、何も答えない。「んやややや・・・」を繰り返すばかりだ。
水筒の蓋を開けて父の顔の前に持って行ったが、全身で拒否する。腕を振り回し、私の頭や顔を叩く。痛くないのだが。
座席や背もたれを手で叩き、「んやややや・・・」と暴れた。

父は車内で大暴れしていたものの、無事、医院に到着。
夫が運転席から降りてすぐに車椅子を用意する。その間に私は父にげんこつで叩かれながら父のシートベルトを外し、降車の準備をした。
父の座席横のドアを開け、介護バーにつかまらせるが、今度はそれを拒否する。前の座席シートのヘッドレスト(頭を支えるヤツ)をつかみ、「降りたくない」というのを全身で表現する。ヘッドレストをつかんだ指をまた1本1本はがす。するともう1本の手でドア上のバーをつかんで降車を拒否する。・・・で、またその指を1本1本はがす・・・。本当にドリフなのだ。
夫は父に叩かれながら、父の足を車外へ出し、私は父の身体を持ち上げ、そこに夫が車椅子の座席をはめこむ。夫も慣れてきて、なかなか連携がとれてきたのである。

医院に入るスロープへ進みたいのだが、父はまた拒否する。足を出して踏ん張って、げんこつを振り回す。
私が父の腕を押さえ、夫は車椅子の前輪を浮かして、半ば車椅子ごと持ち上げるようにして医院のスロープに到着。すると今度はスロープの手すりをつかんではなさない。また父の指を1本1本はがして前進する。曲がり角で車椅子の進みが遅くなると、またスロープをつかむ。またその指を1本1本はがす・・・を繰り返す。怒る気にはなれないが、笑う気にもなれん。
医院に入ると、受付嬢が「大変でしたでしょう~」とおっしゃった。・・・どうやら様子が見えていたらしい。

ここ2年程、父は「待ち時間」が耐えられない。もともと、若い頃からそういう人だったのだが、「早く行け!」というつもりなのか、診察室の方向を指さして「んやややや・・・」と訴える。
「まだだよ。呼ばれてからね。」と言うのだが、私の言葉は全く理解できないので、車椅子から出した足で診察室へ進もうとする。具合の悪いことに、父は車椅子のブレーキを知っているので、ブレーキをかけておいてもすぐに解除してしまう。夫と車椅子を押さえ、呼ばれるのを待った。

予約時間ぴったりに看護師さんが呼びに来てくれた。・・・天の助け。
父はいつも、診察を受けた後に処置室で注射を打ってもらうのだが、父は診察室ではなくて注射を打つ処置室へ行きたいようで、診察室に入ろうとするとドアをつかんで拒否した。それをまた、1本1本の指を引き剥がす。・・・いったい、何度やってんだ・・・
先生はやさしく父に話しかけながら筋萎縮症の進み具合を診察した。父は観念したのか、じっとしている。
「最近は眠れていますか?」「食べられますか?」といろいろ聞いてくださるのだが、父は理解しない。ここでもまた、「んやややや・・・」と言い続けていた。そして先生の机の上にある予備の聴診器やパソコンのマウスを持って振り回す。
「う~ん、認知症の方がだいぶ進んでますねぇ。筋萎縮症はそれほど進んでませんよ。」
と先生はおっしゃった。
「要介護4になりまして・・・」
と言うと、
「でしょうなぁ。妥当なところですね。」
・・・だよなぁ。
そして、ここ半年近くそうなのだが、血圧測定ができなかった。腕を振り回し続けていて、どんなに押さえ込んでも血圧が測れないのだ。

診察が終わって、注射のために処置室へ。
お腹に注射するので、ベッドに寝かせる。が、またもや大暴れ。ベッドの脚にしがみつき、車椅子から降りるのを拒否する。またもや1本1本の指を引き剥がし。夫と私で父を持ち上げ、なんとかベッドに座らせる。そこから身体を回転させて寝かせた。1.2.3、と夫と声を合わせてベッドの上で父の身体を持ち上げて、きちんと寝かせる。
いつも不思議なのだが、父はベッドに寝ると、すぐに目をつぶっておとなしくなる。じ~っとして動かなくなる。注射も痛がらないし、決して暴れない。目を閉じるのだが、まぶたの筋肉が萎縮しているので完全に閉じない。・・・だから、白目になる。これがなかなかコワイのであるが。しかしおとなしくしてくれるので、この、寝かせてから注射が終わるまでが私と夫の休憩時間になる。・・・って、3分だが。

注射が終わり、また車椅子に乗せる。またまた大暴れ。ベッドの縁をつかんではなさない。・・・のを、またまた1本1本の指を引き剥がし、私が父の身体を持ち上げている間に夫が車椅子の座席を父にはめこむ。拒否して、足をだらりとしているので、私が持ち上げていても「立つ気」はなく、まるで座っているような格好になる。だからその父のお尻に車椅子の座席をはめこむ、という感じだ。
待合室へ連れて行くと、またげんこつを振り回し、もう一度処置室へ戻れとばかりに、車椅子から降ろした足で進もうとする。
「もう注射は終わったからね。これで帰るんだよ」と何度言い聞かせても理解してくれない。しかたないのだけれど・・・。
夫が車椅子ごと押さえている間に会計を済ませた。

夫が車を準備しに行き、私は父の車椅子を押してスロープへ・・・行きたいのだが、また足を踏ん張って「帰りたくない!」というのを全身で表現する。待合室の壁の縁をつかんではなさない。するとすぐに看護師さんが来てくれて、うまくスロープまで移動できた。ありがたい。
スロープは下り坂なので、背中が坂の下になるように車椅子を引く。またスロープの手すりをつかむので、その指を引き剥がし・・・を繰り返してようやく車の横へ。
するとまた乗車を拒否。敵も然る者、今度は違う拒否方法を採ってきた。
全身の力を抜き、だらり~となって、私たちが持ち上げられないようにしたのだ!
私が膝と腕で父のお尻を支えて半分座席にお尻をかけ、夫が反対側のドアから入って引っ張った。が、父は今度は座席に寝転び、ドアの縁をつかむ。お尻が半分座席から落ちているので、私が父のお尻を持ち上げ、夫が反対側から父の脇の下にてを入れ、また1.2.3、と移動させ、身体を回転させてなんとか座らせた。

帰り道、父はずっと腕を振り回しながら「んやややや・・・」と言い続けていた。雨がひどく降っていて渋滞していたので、施設に到着したのは6時30分だった。
父は車から降りるのも拒否する。ドア上のバーを必死につかむ。また1本1本の指を引き剥がし、だらりとしている身体をなんとか持ち上げ、父の身体を車椅子の座席にはめ込む。
施設に入ろうとするのにも足を踏ん張って進むのを拒否する。エレベーターから降りる時もげんこつを振り回す。夫も私も父に叩かれながら車椅子ごと持ち上げてエレベーターから降ろし、ようやく父のユニットへ。
はぁ~
本当に重労働なのだ。
夫も仕事に行ってた方が、絶対にラクに違いない。私の父親のことで、実に申し訳ないと思う。

こんなことがいつまでできるんだろうか、と思う。
夫も父の通院に付き合える職場にこの先、恵まれるかどうか、わからん。
さりとて、私一人ではもはや物理的に不可能だし、母は圧迫骨折している。
そろそろ、車椅子ごと運んでくれる福祉タクシーを考えなくてはイカンかなぁ。
たとえうまく父を医院まで連れて行けたとしても、医院で他の患者さんに迷惑をかけるかもしれない。(もう、かけているかもしれん)
いつまで、先生は父を診てくれるかなぁ。
・・・なんてことを考えていたら、寝そびれてしまった。
実に、実に、悩ましいのである。

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